2021.05.24

ロボット・IoT・位置情報などを活用した「建設テック」最新動向

建設現場の写真
建設現場の風景

労働力不足や高齢化といった建設業界共通の課題を解消するデジタル技術として注目されている建設テック。ロボットやIoT、AI、位置情報などを駆使した建設テックは、建設業界における課題をどのように解消し、デジタル・トランスフォーメーション(DX)をどう加速させていくのでしょうか。

建設業界が抱える課題を解消する「建設テック」

建設業界は今、さまざまな課題に直面しています。とくに労働力不足は深刻で、総務省によると2020年の建設業の労働力人口は492万人となり、ピーク時(1997年)の685万人から30%近くも減少しています(※1)。高齢化も進行し、2020年時点で55歳以上が177万人と全体の35%を占めているのに対し、29歳以下の若い世代は全体の11%の58万人にとどまっています(※2)。今後もこの差は広がり、日本建設業連合会(日建連)によると、2025年には60歳以上の熟練技能者が大量離職し、建設業界全体で約35万人もの労働力が不足すると予測されています。

※1, ※2:総務省 労働力調査(基本集計)

労働力不足、熟練技能者の高齢化と大量離職、さらには作業現場での生産性向上、人件費を含むコスト削減など、いわば「建設業界共通の課題」をどう解決するか。期待されているのが、「建設テック」の活用です。
建設テックとは、スマートデバイスやIoT、ロボット、AI、位置情報といったデジタル技術を駆使して、建設現場の業務効率化や生産性向上を可能とする、さまざまなソリューションのこと。ロボットや位置情報を活用した建設テックを導入・活用することで、労働時間の短縮や職場環境の改善も図ることができ、働き方改革を実践することも可能になります。こうしたことから、建設業界では現在、建設テックの導入・活用が、さまざまな課題を解消すると期待されています。

ロボット・IoT・位置情報、建設テックの最新動向は?

建設テックは現在、大手ゼネコンや建機メーカーを中心に開発・導入が進められています。例えば、大林組では現実世界と仮想世界を融合させる「MR(Mixed Reality:複合現実)技術」を用いて、コンピューター上に実際の作業現場を再現できるソリューションを開発。仮想空間で現場作業をシミュレーションしながら、作業効率や安全性にも配慮して最適な作業手順を確定しています。

また、鹿島建設は、ロボットを活用した建設テックを導入・活用しています。同社がこれまでに培ってきた溶接のノウハウをもとに溶接ロボットを開発。高所や狭小部など人手による溶接が困難な箇所にこのロボットを活用したところ、通常の溶接ロボットに比べ大幅に溶接歪みを抑制することができ、1日あたりの溶接箇所を増やすことに成功しています。建設テックで作業効率向上や熟練労働力の不足といった課題に対処した好事例といえるでしょう。

さらに、位置情報を活用した建設テックも注目されています。竹中工務店は、作業員や高所作業車の位置情報を記録して各種管理業務に活用できるアプリの外販を2020年3月に本格化しました。今後も位置情報を活用したアプリの機能拡張や新アプリの開発を続け、全国の建設会社や協力会社を対象に提供。位置情報と合わせて、作業員の業務時間の把握により、作業効率の改善と労働時間短縮なども図っていくとしています。

また、コマツは、既存のショベルカーなどの位置情報を誤差数センチという精度で把握するなど、建機をICT化する「スマートコンストラクション・レトロフィットキット」を提供。旧型の建機でもこのキットを後付けすることで、正確な位置情報をもとに3Dマップ上に表示可能になるとのこと。ICT建機の位置情報をもとに「どこを掘ったか」といった施工データの自動取得も可能となり、生産性や作業効率の向上が期待できます。

このように建設テックの導入・活用が加速する中、ACEESSもIoT技術や組み込み技術、位置情報をもとに、建設テックとして利用可能な各種ソリューションを提供しています。例えば、ビジネス利用に特化したチャットシステム「Linkit チャット」は、広大な建設現場で管理事務所から各作業者への連絡をスムーズに実施できるツールとして活用できます。現場に散らばっている作業者同士のコミュニケーションを円滑にし、作業効率向上にも効果が期待できます。

また、「Linkit Maps 外部リンク」を活用すれば、GPSによって建設現場での作業員の位置情報の確認だけでなく、建設機械の位置情報の確認が可能になります。「Linkit Maps 外部リンク」には、位置情報を共有できる機能があるので、例えば、安全点検が済んだ建機をスマートフォンやタブレットで撮影し、保管されている場所の位置情報とともにチャットで送信。マップ上で位置情報を含めた情報を記録・共有することで、「この場所にあるこの建機は安全点検がされている」という情報を位置情報と写真で確認できます。さらに、作業員の位置情報を確認することで、管理者は広い建設現場で無駄のない移動を実現できているか、安全な場所で作業を実施しているかといったことも確認できます。

さらに、位置情報を追跡できる「Linkit GPS Tracking 外部リンク」を活用すれば、建機や建設資材の移動の状況を正確な位置情報をもとに把握できます。ビーコンに対応したトラッカーを使えば、屋外だけでなく屋内でも位置情報の管理・把握が可能です。

共創による「建設テック」進展でDXがさらに加速

このように、活用が加速している建設テックですが、さらなる建設テックの普及・促進には、解決すべき課題がいくつかあります。例えば、ロボットやIoT、AI、位置情報などを活用した建設テックをゼネコン各社が個別に開発し導入していくと、ゼネコンから現場作業を請け負う協力会社が「ゼネコンごとに異なる操作」を次々に覚えていかなくてはなりません。本来であれば、作業効率化を実現する建設テックの導入・活用が、反対に現場での作業員に新しい操作技術の習得という負担を課すことになる可能性が懸念されるのです。

また、ゼネコンなどが個別に建設テックを開発すると、開発コストが膨大になってしまうことも指摘されています。その結果、建設テックの現場へ普及が妨げられてしまうようでは本末転倒になってしまいます。

そこで、各企業が独自に建設テックを開発するのではなく、ゼネコンや建機メーカー、さらには現場で建設作業を請け負う協力会社といった企業間における垣根を取り払い、建設テックのオープンイノベーションを図ることが求められています。実際、2020年には竹中工務店・鹿島建設・清水建設の建設テックを手掛けるゼネコン3社が、ロボット施工・IoT分野での技術連携に合意しました。建設テックに関わる新規ロボットの共同開発や相互利用を促進することで、建設テックに必要な研究開発費やロボット生産コストを抑えることができます。

これにより建設テックの普及がさらに促進され、建設業におけるDXの加速につながることが期待されているのです。建設業界はこれまでの競争から、各企業による協力、そしてオープンイノベーションによる共創・協創へと方向転換が進みつつあるようです。