テレワークが新たな働き方のひとつとして定着してきた中、今、「快適なテレワークを実現するための労働環境の整備」が求められています。多くの企業は通信環境やオンライン会議ツールの整備、セキュリティ対策の導入などに注力してきましたが、これからは、仕事に従事する部屋のCO2濃度や温度・湿度、明るさ、従業員の体調管理などといった「労働環境と健康管理」の観点からの支援が求められています。
そこで注目されているのが、環境データやバイタルデータを把握できるIoTデバイスなどの活用です。より働きやすいテレワーク環境を実現するIoTデバイスの活用と、そのために企業側が考慮しておくことについて考えてみましょう。
テレワークの浸透により、在宅で仕事をする人が増えています。国土交通省が2021年3月19日に発表した「2020年度 テレワーク人口実態調査」によると、テレワークの実施場所では「自宅」が88.4%と最も多く、「自社の他事業所」が8.5%、「共同利用型オフィス」は6.5%でした。
オフィスワークとは異なり、場所にとらわれない働き方を実現できるのがテレワークの魅力ですが、社員の健康管理やテレワーク環境の改善に向けた課題があることも事実です。例えば、厚生労働省が公表している「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」では、室内の換気のほか、照度や温度・湿度を適切に保つことが推奨されています。
【テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドラインによる推奨項目】
・室内の換気
・作業に支障がない十分な明るさ
(事務所則第10条、情報機器作業ガイドラインでは机上の照度300ルクス以上)
・冷房、暖房、通風などを利用し、作業に適した温度、湿度となるよう調整
(事務所則第5条、情報機器作業ガイドラインでは室温17℃~28℃、相対湿度40%~70%)
室内の明るさが不十分だったり、気温や湿度が適切でなかったりすると仕事に集中できず、業務効率が大幅に低下することが考えられます。また、社員の健康に悪影響を及ぼす可能性もあるでしょう。そこで、テレワークに適した自宅の仕事環境を整えることを目的としたICTの活用が進められています。
これまでは、多くの企業がテレワークの実施のために、従業員の自宅における通信環境やシステム、ICTツールの整備に取り組んできました。今後は、室内の換気や温度調整、照明など働く環境を改善するための「環境センサー」や、社員の体調を把握し適切に管理するための「バイタルセンサー」など、自宅の就業環境を最適化する目的でICTツールを活用する企業が増えてくると考えられます。
※出典
国交省 2020年度 テレワーク人口実態調査
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001391075.pdf
厚労省 テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shigoto/guideline.html
テレワークでの就業環境を最適化する代表的なICTツールとして、環境センサーなどが挙げられると紹介しましたが、具体的にどのような運用方法が考えられるのでしょうか。その他のICTツールの運用例も含めて詳しく紹介しましょう。
例えば、閉め切った部屋の中で長時間にわたって仕事をしていると、CO2濃度が高まり「空気がよどんでいる」と感じることがあるでしょう。また、冷房や暖房を長時間つけたままにしていると、部屋の中が寒すぎたり暑すぎたり、温度が適切に保たれないことも考えられます。こまめに町営できればよいのですが、作業に追われるあまりに部屋の中の環境が変化したことに気付かないでいると、集中力が途切れてしまい業務効率が低下することも考えられます。
そこで、CO2濃度や温度・湿度を計測できる環境センサーを社員宅に設置し、センサーから取得した環境データをクラウドにアップロードするシステムを構築します。環境データを解析し、必要に応じて換気のタイミングや冷暖房の調節といった改善提案を自動的に通知することで、快適なテレワーク環境を整備、支援できるでしょう。もちろん、このような環境データを活用した就業環境の支援はテレワークだけにとどまらず、オフィスへ導入することも可能です。
今後、オフィスワークとテレワークをバランス良く取り入れる「ハイブリッドワーク」も注目されていますが、自宅でもオフィスでも快適な就業環境を整備するためにICTツールの導入はさらに重要性が増していくと考えられます。
ハイブリッドワークが定着すると、テレワークとオフィスワークの従業員が混在することになります。ここで問題となるのが、オフィスの施錠・解錠です。例えば、翌日にテレワークを予定している従業員が、誤ってオフィスの鍵を持ったまま帰宅してしまった場合、翌朝出社した従業員はオフィスに入ることができません。
このような問題を解決する手段として、スマートロックの活用が挙げられます。物理キーではなくスマートフォンアプリからの施錠と解錠が可能となり、従業員間での鍵の受け渡しも不要。また、オフィス外から遠隔操作も可能なため、施錠忘れも未然に防止できます。
今後は、各種センサーなどのIoTデバイスなどを活用して、従業員がより働きやすいテレワーク環境を実現する動きが進展すると考えられますが、一方で企業が考慮しなければならないこともあります。
例えば、自宅で働く従業員の労働環境や体調管理などにおいては、自宅がプライベートな空間であることからプライバシー保護の視点は欠かせません。どこまで企業が介入すべきか明確な線引きが必要であり、一歩間違うと従業員からの反発を招くことも考えられるでしょう。
また、情報セキュリティの保護や勤怠管理の観点から、通信内容や位置情報をモニタリングして監視するといった運用も考えられますが、従業員に対して事前に十分な説明を行い相互に納得しないと、プライバシー侵害にあたる可能性もあります。
このようなトラブルを未然に防ぐために企業がとるべき対策としては、まず、プライバシーの保護方法を開示することです。取得したさまざまなデータを何の目的に使用し、従業員のプライバシーをどのように保護しているのか、その仕組みや方法を従業員に開示することは基本的な対策のひとつといえるでしょう。
例えば、勤怠管理を目的として従業員のスマートフォン端末から位置情報を取得している場合には、業務時間外のデータは収集しないといった仕組みやルール作りが必要です。また、通信内容のモニタリングについては、勤務時間中のPC画面をキャプチャし管理者が確認できる仕組みもありますが、行き過ぎるとプライバシーの侵害に該当するケースも考えられます。例えば、従業員同士のメールのやり取りを第三者が無断で監視することは、適切な管理と認められないこともあるため十分注意しましょう。
さらに、テレワークにおける従業員向けのプライバシーポリシーを周知し、万が一、不安が残る従業員に対しては、専用の窓口として「プライバシーホットライン」を設置できれば理想的です。プライバシーホットラインに集約された相談内容や懸念事項を参考に、企業としてとるべき対策を講じ真摯に向き合うことで、従業員からの理解を得ながら理想的なテレワーク環境を整備できることでしょう。ただし、プライバシーホットラインの設置にあたっては、相談した従業員が企業や組織から不利益を被らないよう十分配慮する必要があります。
今回、ご紹介してきたように、テレワーク環境の整備にあたってはさまざまな課題が残されており、これらに配慮しながらテレワーク環境を整備していくことが企業に求められています。ACCESSでは、お客様企業の従業員の方々が「より働きやすい」と感じられる環境の整備に向けて貢献できるように取り組んでいます。